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東光寺の日々

東光寺の暮らしのなかから創作される、詩歌や散文。

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揺蕩う

夜っぴて吹きすさぶ風が
闇を一層深くし
庫裡の屋根に
木霊が降りてくる

小学校に入る前から
祖母ヨウのところに泊まりに行ったが
裏庭の竹藪のさざめきが
悪霊を運んでくるしるしに思われて
おびえがぼくを縮こまらせ
祖母にしがみついて寝た

祖母はたぶん六十代の半ばか
両太腿で
冷え切った僕の足を温めながら
夜風におびえる魂を癒やしてくれる

祖母の家の便所は
竹藪が傍まで迫って
雨戸のない廊下へ出ると
暗闇で揺れる竹藪は
長い濡れた髪を垂らした女のように
僕を脅かすのだ
なんどか小便に起きたが
祖母は一緒に起きて見守ってくれていた

このところ頻尿だったりして
眠りが浅く
じきに便所にいる夢を見る
さまざまな場所の便所が現れ
祖母の家の便所にも
竹藪に迎えられながら
夢のなかではなんども訪れる

夢のなかの便所では
決して果たすことはできず
床が傾斜していて立っていられなかったり
カーテンに仕切られていて
めくってもめくっても
まだカーテンに隠されていたりする

昨夜の夢のトイレは
六畳ほどの座敷の壁際にある便座式で
僕はそこに座っているが
便座の下に穴はなく
ベンチに便座がおいてある風なのだ

腰掛けている便座の足元に
白い布団が敷かれていて
頭を向こうに誰かが寝ている
それが父親だと僕には分かっていて
どうして父がここにいるのか
何故父の足元へ腰かけて
僕は小便などしようとしているのだろう

夢のなかで便所探しをする
揺蕩うわが老年期
哀れな老人が僕なのか
目覚めて便所へ行きながら
僕はいまも夢のなかでは子供のままなのか
などと自問する

夢から解放され
庭に出て登る朝日に手を合わす
見上げる杜は
木の葉の大きなドームになっていて
そこに立って心を澄ますと
くろがしの木霊が息吹きをかけてよこす

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