東光寺の日々

東光寺の暮らしのなかから創作される、詩歌や散文。

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流転

道を歩きながら
父は時々立ち止まり
小石を黒い靴で転がして
雨が降れば
水たまりになる
道路の窪みに
放り込む

子供の頃は
舗装路などほとんど無くて
雨が降ると
泥濘になり
水たまりができ
けんけん遊びのように
ぬかるみや水たまりを避けて歩く

小石を窪みに靴で入れるのは
父の習性となっていて
なぜそんなことをするかと
訝しげな目のぼくに
道が少しでも良くなればいいからだ
と小さな善意の積み重ねを
示しているのだった

父は外出には正装した
髪をポマードで整え
一張羅の洋服を着て
中折れ帽も必ずかぶり
黒い磨き上げた靴を履いた

その靴で小石を転がす
道を歩きながら
小石を見つけると
それを繰り返す
父なりの
すこしでもなにかの役に立つという
公徳心の発露なのだろう

そんなことを思い出しながら
流転してきた家族の
子供の頃からの
いろんな場面を思いだす

大阪府南河内郡狭山村だったか
故郷を後に
南海高野線の狭山駅から
住み着いた飯場の小屋

駅で下車して
弟と僕が手を繋ぎ
父の前を歩いていたとき
父はまた
立ち止まって
小石を蹴っていたが
ぼくが振り向いたとき
父は石を蹴りながら
涙ぐんでいた

僕は
黙って前を向き
弟の手を握りしめて
足を速めて歩いた


bizan
故郷徳島の眉山を思い出して描いたクレパス画
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